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写経会【毎月第4土曜日開催】

令和7726

地獄とは

 

はじめに、地獄というと空想上の世界のように感じる方も多いかもしれませんが、昔の人たちが善い行いをするための動機付けや倫理観の礎となっていました。世界というものは不思議なものでたいていの場合二項対立の概念が生じます。仏の世界をどんどん探求していくと、その真逆も当然生まれてくるわけです。プラス100のことが想定されるならマイナス100の事も想定される通り、地獄もあって然りということだと思います。

昔の人の想像だと片づけず、地獄の世界を探ってみると、実はその反対の仏の世界の見え方も変わってきます。

そんな地獄のご紹介を少しだけ資料として紹介します。

 

1. 地獄とはどんな場所?

仏教では、私たちは死後、生前の行いに応じて6つの世界(六道:文末参照)のいずれかに生まれ変わると考えられています。これを輪廻転生(りんねてんしょう)と言います。

地獄は、その六道の中で最も下に位置し、最も激しい苦しみを受ける世界とされています。しかし、キリスト教などの地獄と大きく違うのは、一度落ちたら永遠に出られないわけではないという点です。犯した罪を償い終えれば、地獄での生を終え、再び六道のどこかに生まれ変わることができるとされています。

 

2. なぜ地獄に落ちるのか?

地獄に落ちる原因は、生前の悪い行い(悪業:あくごう)です。仏教では、以下のような行いが悪業とされています。

①殺生 生きものの生命を奪う。   偸盗 与えられていない他人の財物を取る=盗み

③邪淫 よこしまな男女の交わり。  妄語 嘘をつく。でたらめを言う。

⑤綺語 無意味、無益なことを言う。 悪口 他人を傷つける言葉。陰口、中傷。

⑦両舌 他人の仲を裂く言葉。慳貪  貪欲 財物などをむさぼり求める。異常な欲。

⑨瞋恚 いかり憎む。        愚痴 真理を理解しない。

これらの悪業を重ねることで、死後にその報いとして地獄に生まれ変わると考えられています。

 

3. 地獄にはどんな種類があるの?(八大地獄)

地獄は一つではなく、犯した罪の種類や重さに応じて、様々な階層に分かれているとされます。その中でも代表的なのが「八大地獄(はちだいじごく)」です。下に行くほど、罪が重く、苦しみも激しくなると言われています。

地獄の名前

主な対象となる罪

苦しみの内容(例)

等活(とうかつ)地獄

殺生

鬼に体を切り裂かれ、死んでもすぐに生き返り、同じ苦しみを繰り返す。

黒縄(こくじょう)地獄

殺生に加え、盗み

熱い鉄の縄で体に線を描かれ、その線に沿って斧で切り裂かれる。

衆合(しゅうごう)地獄

殺生、盗み、邪淫

鉄の山に押しつぶされたり、鋭い刃の木から逃れられなかったりする。

叫喚(きょうかん)地獄

上記に加え、飲酒

熱湯で煮られたり、焼けた鉄の室に入れられたりして、絶叫の苦しみを味わう。

大叫喚(だいきょうかん)地獄

嘘をつくなど五戒を破る

さらに激しい叫喚地獄の苦しみに加え、舌を抜かれるなどの苦しみを受ける。

焦熱(しょうねつ)地獄

仏教の教えを否定する

燃え盛る炎の中で焼かれる、非常に高温の地獄。

大焦熱(だいしょうねつ)地獄

善人を殺すなど重罪

焦熱地獄よりもさらに激しい炎で、体の内側から焼かれる苦しみ。

阿鼻(あび)地獄

親殺しなど、最も重罪

間断なく(無間)、あらゆる方向から炎や刃に襲われ、最も激しく長い苦しみを受ける。「無間地獄」とも呼ばれる。

*倶舎論・長阿含経・正法念処経など地獄を扱う経によって地獄の広がりに差があります。

4. 地獄からの救い

前述の通り、地獄の苦しみは永遠ではありません。長い時間をかけて罪を償いきれば、そこから解放されますが、地獄での寿命は桁違いに長いので注意が必要です。

ちなみに各地獄での寿命は以下の通りです。

等活地獄(とうかつじごく):166531250万年

黒縄地獄(こくじょうじごく):133225億年

衆合地獄(しゅうごうじごく):1065800億年

叫喚地獄(きょうかんじごく):8526400億年

大叫喚地獄(だいきょうかんじごく):68211200億年

焦熱地獄(しょうねつじごく):545689600億年

大焦熱地獄(だいしょうねつじごく):4365516800億年

阿鼻地獄(あびじごく) / 無間地獄(むけんじごく): 34924134400億年もしくは 6821120兆年

 

また、仏教には地獄に落ちた人々を救おうと尽力してくれる存在がいます。その代表がお地蔵さんとして知られる地蔵菩薩(じぞうぼさつ)です。地蔵菩薩は、自ら地獄にまで赴き、苦しむ人々を救済してくれる慈悲深い仏様として、古くから信仰されています。

 

補足 六道について

六道とは?

六道とは、仏教において、生きとし生けるものが自らの行い(業・カルマ)によって生まれ変わりを繰り返す、6つの世界(境涯)のことを指します。これを「六道輪廻(ろくどうりんね)」と言います。

どの世界に生まれ変わるかは、生前の心のあり方や行動によって決まります。そして、どの世界も苦しみから完全に解放された場所ではなく、この六道の世界をぐるぐるとさまよい続けること自体が「苦」であると仏教では考えられています。仏教の最終的な目標は、この輪廻のサイクルから抜け出し、悟りの境地である「涅槃(ねはん)」に至ることです。それでは、6つの世界を上から順に見ていきましょう。


1. 天道(てんどう) - 天人の世界

  • どんな世界?: 六道の中では最も苦しみが少なく、寿命も非常に長く、喜びに満ちた世界です。いわゆる「天国」のイメージに近いかもしれません。
  • どんな人が行く?: 生前に善い行いをし、徳を積んだ人が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 楽しみや喜びに満ちていますが、それも永遠ではありません。寿命が尽きる際には、死の苦しみと、次に低い世界へ堕ちる恐怖(天人五衰:てんにんのごすい)を味わうことになります。また、快楽に満ちているため、仏の教えを求める心が起こりにくいという苦しみもあります。

2. 人間道(にんげんどう) - 人間の世界

  • どんな世界?: 私たちが今生きている、この世界です。
  • どんな人が行く?: 善い行いと悪い行いを、同じくらい行った者が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 苦しみ(四苦八苦)と楽しみが混在しています。病気、老い、死といった根本的な苦しみ(四苦)のほか、愛する者との別れ、憎い相手との出会い、求めても得られないといった様々な苦しみがあります。
  • 特徴: 苦しみがあるからこそ、それを乗り越えようと仏の教えに出会い、悟りを目指すことができる唯一の世界とも言われ、六道の中では最も尊い世界だと考えられています。

3. 修羅道(しゅらどう) - 阿修羅の世界

  • どんな世界?: 常に争いと怒りが渦巻いている世界です。「阿修羅(あしゅら)」という、怒りの形相をした神が住むとされています。
  • どんな人が行く?: 生前、常に他人を妬み、争いを好んだ人が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 自分の力は天人に劣らないと思い込んでいるため、天道に住む神々(特に帝釈天)に嫉妬し、絶えず戦いを挑みます。しかし、決して勝つことはできず、常に敗北と怒りの苦しみを味わい続けます。

4. 畜生道(ちくしょうどう) - 動物の世界

  • どんな世界?: 牛、馬、鳥、魚、虫など、人間以外の動物たちが生きる世界です。
  • どんな人が行く?: 生前、恩を忘れたり、他者から施しを受けておきながら返さなかったり、ただ本能のままに生きた者が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 弱肉強食の世界であり、常に他の動物に捕食される恐怖に怯えながら生きています。また、人間に支配され、労働力や食料として利用される苦しみもあります。本能で生きるため、仏の教えを理解することができず、自力でこの世界から抜け出すことは極めて困難です。

5. 餓鬼道(がきどう) - 餓鬼の世界

  • どんな世界?: 飢えと渇きに絶えず苦しむ「餓鬼(がき)」が住む世界です。
  • どんな人が行く?: 生前、強欲で、自分だけが得をしようとしたり、食べ物を独り占めしたり、嫉妬深かった人が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 食べ物や水を見つけても、いざ口にしようとすると燃え上がってしまい、決して満たされることがありません。お腹は大きく膨れているのに、喉は針のように細い姿で描かれ、終わりのない飢餓の苦しみを味わいます。

6. 地獄道(じごくどう) - 地獄の世界

 

  • どんな世界?: 前回ご説明した通り、六道の中で最も過酷で、激しい苦しみを受ける世界です。
  • どんな人が行く?: 生前に殺人や盗みなど、極めて重い罪を犯した者が生まれるとされています。
  • どんな苦しみがある?: 罪の重さに応じて様々な地獄(等活地獄、黒縄地獄、阿鼻地獄など)に堕ち、想像を絶する責め苦を、罪を償い終えるまで延々と受け続けます。