· 

掛軸

2月に都美術館に展示していた作品の仕立てが終わり返ってきました。

 

常建の名詩「破山寺後禪院」という漢詩です

 

早朝の古寺に満ちる光と静寂に、そして雑念が消えゆく禅の修行が重ねて描かれています。

 

古寺を取り巻く自然も含めて、全体が仏の世界にいざなうような雰囲気と朝の心地よい緊張感に惹かれこの詩を選びました。

 

#古河市 #遍照寺 #書道 #禅 #常建 #書道


破山寺後禪院(はざんじうしろのぜんいん)    常(じょう)建(けん)

 

清晨入古寺 (清(せい)晨(しん) 古(こ)寺(じ)に入(い)れば)

初日照高林 (初(しょ)日(じつ) 高(こう)林(りん)を照(て)らす)

曲徑通幽處 (曲(きょく)徑(けい) 幽(ゆう)處(しょ)に通(つう)じ)

禪房花木深 (禪(ぜん)房(ぼう) 花(か)木(ぼく)深(ふか)し)

山光悦鳥性 (山(さん)光(こう) 鳥(ちょう)性(せい)を悦(よろこ)ばしめ)

潭影空人心 (潭(たん)影(えい) 人(じん)心(しん)を空(むな)しうす)

萬籟此倶寂 (萬(ばん)籟(らい) 此(ここ)に倶(とも)に寂(じゃく)たり)

惟聞鐘磬音 (惟(た)だ鐘(しょう)磬(けい)の音(おと)を聞(き)くのみ)

 

清晨 … すがすがしい朝。

初日 … のぼったばかりの太陽。

曲径 … 曲がりくねった小道。

幽処 … 奥深く、静かなところ

禅房 … 禅堂。

山光 … 朝日を受けた山の色。

悦鳥性 … 小鳥たちが嬉々としてさえずっているようす。

鳥性は、鳥の本性。

潭影 … 深い淵の色。潭は漂うの意

万籟 … この世のすべてのものが発する音。籟は本来笛の意。

鐘磬 … 鐘と磬。磬は、石板を吊り下げて叩く、法具。

 

 

 

【現代語訳】

早朝、この古寺を訪れると、

昇ったばかりの朝日が木々の高い梢を明るく照らしている。

曲がりくねった小道は、奥まった静かな場所へと続き、

禅僧の修行する部屋は、生い茂る花や木々の中にひっそりと佇んでいる。

山の清々しい光は鳥たちの心を喜ばせ、

深い淵に映る影は、人の心の迷いを消し去って空(くう)にしてくれる。

この場所では、世の中のあらゆる物音も消え去って静まり返り、

ただ、心に響く鐘と磬の音だけが聞こえてくる。

 

 

 

【揮毫にあたり】

常建の代表作として名高いこの詩は、一節ごとに禅院の朝の情景が眼前に浮かび上がるような臨場感と心地よい緊張感、寺を取り巻く自然を厳かに描き出す高い感性に満ちています。

光あふれる視覚的な描写から、やがて心の内省へと移ろい、最後には幽玄な響きだけが残る――。その構成は、まさに禅の修行の過程と重なります。

読み終えると、座禅を終えたかのような清々しさに包まれるのは、決して気のせいではないでしょう。

寺院とは、時代や環境が移り変わろうとも、人々を仏の世界へと導き、心を穏やかに整える場であるべきだと考えます。遍照寺もまた、そのような安らぎの地でありたい。その願いを込め、このたびの晋山にあたり、本詩を作品として揮毫いたしました。